地球温暖化人為説におけるコンセンサス

2004年にNaomi Oreskesという人物による記事がScience誌に掲載された。Oreskesの記事は温暖化人為説に対する科学者のコンセンサスが形成されていることを主張する内容であった。それによれば、温暖化人為説に異論を唱える研究は一遍も存在しないというものだった。

BEYOND THE IVORY TOWER: The Scientific Consensus on Climate Change

「Nevertheless, they might downplay legitimate dissenting opinions. That hypothesis was tested by analyzing 928 abstracts, published in refereed scientific journals between 1993 and 2003, and listed in the ISI database with the keywords "climate change" (9). 」

しかし、彼ら(IPCCなどの主要科学団体)は、正当性のある反論を無視している可能性がある。その仮説を検証するため、1993年から2003年までに科学系学術雑誌にて公開され、ISIデータベースで「気候変動」というキーワードで検索される学術論文928本の概要を分析した。

「The 928 papers were divided into six categories: explicit endorsement of the consensus position, evaluation of impacts, mitigation proposals, methods, paleoclimate analysis, and rejection of the consensus position. Of all the papers, 75% fell into the first three categories, either explicitly or implicitly accepting the consensus view; 25% dealt with methods or paleoclimate, taking no position on current anthropogenic climate change. Remarkably, none of the papers disagreed with the consensus position. 」

928本の論文は6つに分類できる。気候変動における科学者間の同意を支持するもの、影響を評価するもの、緩和を提言するもの、方法論、古気候の分析、そして科学者間の同意を否定するものである。75%の論文が最初の三つのカテゴリーに入り、直接・間接的に科学者間の同意を受け入れている。25%が方法論と古気候の分析であり、現在の人為的気候変動については見解を明らかにしていない。明らかなのは、一本の論文も、気候変動に関する科学者間の同意に異を唱えていないことである。


コンセンサスの既成事実化 (Oreskesの印象操作記事)

このOreskesの記事は丁度「第10回気候変動枠組条約(COP10) (2004年)」と同期して発表され、その後メディアによって大きく取り上げられることになった。この報道によって、人々の意識から二酸化炭素説に懐疑的な論文があたかも存在しないかのように印象付けることに成功した。しかし、Benny Peiserが調べたところ、Oreskesの研究手法には嘘や誇張が含まれていたことが明らかになった(The Reference Frame: Naomi Oreskes & her study: errata) 。2006年には、Ray Evansによって「地球温暖化における9のつのウソ」の中でNaomi Oreskesのコンセンサス記事が取り上げられるている。


Oreskesの研究手法は、“Climate Change”というキーワードで、1993年から2003年までに発表され、ISIデータベースに登録されている査読付きの論文を分析したところ、928の論文が該当し、その中で人為的な気候変動に対して反論を唱える論文は一つもなかった、というものだった。しかし、実際は、“Global Climate Change”というキーワードで検索した結果であった。しかも、Benny Peiserによれば、少なくとも34の論文が二酸化炭素説に懐疑的な論文があったことも分かっている。 Oreskesの記事は世論誘導のための提灯記事となっただけでなく、このコンセンサス記事のマスコミ報道によって人々の意識から懐疑的な論文があたかも存在しないかのように印象付けることに成功した。また、温暖化のコンセンサスに関しては、MikeRossTky氏による人間が関与するとされる温暖化論に総意はなし!」という記事も参考になるだろう。


科学の中立性

Naomi Oreskesのコンセンサス記事を掲載したときのScience誌の編集長であったドナルド・ケネディは、ソウル大の黄禹錫(ファン・ウソク)元教授によるES細胞の論文捏造問題を受けて、注目を浴びる分野の研究など捏造が入り込みやすいハイリスク論文の審査を厳しくするようにとの勧告を受けている(注目分野の論文審査厳しく 捏造問題教訓に米科学誌)。

ドナルド・ケネディ編集長は、ES細胞捏造論文に対して、まだ疑惑の段階だったときに中央日報の取材を受けていた。その取材の中で、黄教授のES細胞の論文捏造疑惑を指摘する韓国文化放送(MBC)の主張に対して、「黄教授の研究内容は正しいと確信している」と述べ、全面的に黄教授を擁護する発言を行っている(「MBCの主張、正しいことは1つもなし」ドナルド・ケネディサイエンス編集長インタビュー )。捏造疑惑が問われたときの、権威ある科学雑誌の一つされるScience誌の対応はどこか官僚や役所の対応と似ている。いわゆる無謬性の神話である。

しかし、科学も嘘や捏造、でっちあげといったものから決して無縁ではない。温暖化のコンセンサスをでっち上げた記事、そしてES細胞の捏造記事、これらはどのようにすれば防げただろうか。科学は反証可能性が担保されているから、いずれ後世の人によって気づいた誤りは更正されるだろう。しかし、科学の誤りに気づくには、何事も鵜呑みにせず、あまり権威やイメージにとらわれないことも必要なのかもしれない。


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